「hand」


 彼女の手は丸い。
 ある晩彼女は母親にその手を取られしげしげと眺められた後大爆笑された。
 しかしなかなかそんな事をされる人はいないだろう。彼女も同じくきょとんとしていたが、母親にしてみれば『苦労させてないように見える』らしかった。
 確かに彼女の指先は丸みを帯びていて、薬指などは巻き爪気味で時々彼女を困らせていたし、逆に母親の手は、高校を卒業してからずっと仕事や家事に明け暮れてきた所為で爪は真っ平らで、元々乾燥気味だった肌は水分を失い、時々割れていた。鞄の中はもちろん、車の中にすらハンドクリームを常備して、かなり頻繁に使用しているのを彼女は幾度となく見ていた。
 母親は彼女を少し、哀れに思っていたのかもしれない。料理も裁縫も苦手な、そんな不器用な娘の未来に、少し、不安を感じたのかもしれない。
 そのようなことをぼんやりと考えながらも彼女は、『だけど手を、自分の母親にじろじろ見られて、しかも笑われる子どもなんてそうそういないよ』と小さくぼやいていた。
 彼女の手は冷たく白い。
 小さい頃から末端冷え性だった彼女の指先は、特に冬場によく冷えていた。その所為でクラスメートからは『雪女』と言われていたし、彼女も甘んじてそれを受け入れ、よく挨拶代わりに後ろから近づいて襟からその冷たい手を突っ込んでいた。そして反撃されていた。
 実際彼女が生まれたのは大雪の早朝だったし、地域の慣習で産まれてから一月後に参拝する神社に行く日も季節外れの雪が降った。雪、という単語は彼女をもっとも端的に、そして的確に表したものであり、彼女もそう思っていた。
 そう言えば彼女の卒業式はいつも雪が降っていたかもしれない。テレビでよくやるような桜の下、と言うシーンはついぞ拝んだことがない。これは彼女が住んでいる地域がどちらかというと北寄り、というのも大いに関係があるだろうが。
 それは彼女の手が比較的一年中白い理由でもある。
 しかし最近冷え性が治ってきているのか、暦が二桁になっても手が温かい時がある。『嬉しいことなんだけど』と思いながらも、彼女はほんの少しだけ、複雑な心持ちのようだった。
 彼女の手は滑らかで小さい。
 高校の時に彼女には手フェチの友人がいた。もっともその兆候が現れたのは三年生、彼女と出会ってから実に一年半の時が経ってからではあったが。友人は時々休み時間に彼女の教室を訪れては、彼女の手を触りに来た。マッサージをするようにそれこそ爪の先までを念入りに撫でるように。
 端から見てもあまり気分のいいものではなかったろうし、触られる方もあまりいいものではなかった。しかし、頼まれると嫌と言えない彼女の性格と妙に押しが強く少々我が侭な所のある友人の性格が相まって、奇妙な需要と供給が成り立っていた。
 友人は手のほかにも特定のものに執着する癖があった。ある漫画のキャラクターに惚れて雑誌を買う度にその漫画の部分だけを剥ぎ取り、単行本はもちろん二冊購入していた。この替えを用意するという傾向はもちろん手についても例外でなく、別の友人にも触らせてもらっていた。友人曰く、『自分より小さくて、すべすべしていて、ちょっと細めのがいい』らしい。それは彼女にとって褒められているのかどうなのだか微妙な所だったが。
 ちなみに友人は高校を卒業後、都心の大学に進んだと彼女は聞いた。もっとも別の友人曰く、『あんまり変わってなかった』らしく、それも少し恐いな、と彼女は思った。しかし心の底で、我が道を進んでいる友人を羨んでいることに彼女自身は気付いていない。
 彼女の手を見ていると、色々なことが見えてくる。私はそんな彼女が大好きである。






















「確かに感想文としては面白いとは思うんだけど、読書感想文の課題にこれを提出するのはどうなのかしらね」
「どうなんでしょうね、先生」




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多分叱られると思います。
薬指どころか中指と小指まで巻き爪気味の今日この頃。