「鴨がネギ背負ってやって来る、ではないけれど」


 雉も鳴かずば撃たれまい、なんて言ったのは誰だった?
 あーあーあー、本日は曇天なり。ビーグル犬を乗せた人間大砲が時々頭上辺りを飛び交うでしょう。傘じゃどうにもならないので運も悪く事故に遭われた方は哀れ哀れ、合掌。
 なんて天気予報が流れるご時世じゃ、そんな暢気なことも言ってられないね。そう呟きながら俺はてくてくと斜め五.五度に傾いたビル街の隙間を抜けていく。これが最近のトレンディな傾き、らしい。知るか。
 黒いスーツに身を包み、ポケットに無造作に両手を突っ込んでいる俺の姿はこの街ではそれはそれは珍妙で、にょきにょきキノコみたいに蔓延っている建物の隙間からくすくす笑われていると思ったら風のいたずらだったりして、こっそり顔を赤らめているのを全身きらびやかに電飾をまとった貴婦人に怪訝な顔をされて今度こそ俺は顔を赤らめる。俺は自分で言うのもなんだが、軽度の対人恐怖症で要するにあがり症の臆病者なので、悲しいくらいに人前では本来の力を発揮できない。本来の力と豪語してみたが、そんなものはそれこそ風の前の塵に等しいものなので、ここでは割愛させてもらう。
 相変わらずぴいぷうぽうと吹きすさぶ風に紛れて、濁り酒はいらんかね、いらんならこのまま火炎瓶にしてしまうよ、などともったいないことを言う不届きな露天商がいたので影踏みをして捕まえる。こいつは良いね、言い値でいいね、そんなに払えるか呆け、などというやりとりの末に値切って値切って一割増の値段で買い付けた。このネギっておまけかよ?生じゃ食えねぇよ。
 果てさて、それからのちょっとした放浪の末に俺は手頃な休憩地を視界の先に見いだした。距離にしたら舌先で三分くらい。そこは小さな噴水を取り囲むようにモザイクでゲンコツとピースサインと何の変哲もない手のひらが描かれた広場だった。じゃーんけんほい、と言いながら俺はグーの真上に座る。途端に腹の虫がぐぅとむせび泣く。分かった分かった、何かくれてやろうと懐をがさりがさりと漁ってはみるものの果たしてこれは陰謀か、何も出てきやしない。いやいやついさっき酒なんぞを買ったから当たり前なんだけどね。仕方がないので、あさっての方向、つまりは右の辺りを見渡してみる。
 と、そこにいるのは一匹の雉。
 何故なぜこんな所に?などと疑問符を並べてみたところで腹はふくれてはくれないので、さっそくご馳走を現在進行形で頂こうとする。
 雉はパーの真上で暢気に首を反らせて日光浴と洒落込んでいる。ここが大事なアタックチャンス、とばかりに俺は後ろからそっと回り込んで優しく抱きしめてみる。ところが雉はおとなしくそのまま腕の中に収まってしまった。こいつは何だ、野生であるなら気配を察してバサバサと飛び回ってひとしきり鬼ごっこを楽しむというのが狩りにおける嗜みだろう、ぱぁなのか、と訝しんではみるがそれにしても雉はおとなしいままなので、困った俺はさっき酒のおまけにもらったネギを雉の頭に挿して火打ち石で尻尾からゆっくり焼いてやろうと試みる。
 そこでようやく、困ったことに雉が目を覚ます。ぱちくりと瞳を広げたままでバタバタと走り回る。嗜みなので仕方がないと俺は後ろを追いかける。雉はちょうどチョキの真上に来るとピタリと止まり喉を反らせて、突然やんばーりやんばーりじゃぬありー、などと鳴き始めるものだから、もちろん俺はびっくりして三歩半くらい飛び退いた。
 その時空から鐘の音が響いたかと思うとそこかしこに隠れていたエキストラから銃口が突きつけられ、乾いた間抜けな音を立てて銃弾が撃ち込まれた。
 何てことだ。だから誰かが言っていただろう、雉も鳴かずば撃たれまいと。       俺が。
 そんなことを呟くまでもなく俺はその場に倒れ込んだ。目を深く瞑る。どうやら銃弾は俺を容易く別の世界に運んでいってくれるらしい。
 そこは螺旋の世界。ぐるぐるとどこまでも意識のみが漂う世界。漂って漂ってあてもなく、次のどこか別の世界にたどり着く。ずいぶん昔にいた所では、それを転生、などと呼んでいたっけ。意識はずっと俺のまま。それが俺の本来の力。なんてね。どんな生き様を綴ろうとも、それは次の世界へのお膳立て。いわゆる予告、みたいなもの。俺の本当ってやつは、一体何処にあるのやら。



 さてさて、次は何処に行こうか?





 どこか遠く遠くやんばりーやんばりー、と言う鳴き声がした。気がした。




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テーマ『予告』。
全然ノルマクリアしてません。
たまーにこういうのも書きます。